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したっぱ昆虫細胞研究者のメモ

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2009年 08月 28日

微重力でES細胞の分化抑制

Kawahara Y, Manabe T, Matsumoto M, Kajiume T, Matsumoto M, Yuge L.
LIF-free embryonic stem cell culture in simulated microgravity.
PLoS One. 2009 Jul 23;4(7):e6343.

 先日紹介させていただいた微重力が胚発生に及ぼす影響に出てきた3Dクライノスタットを作ったLouis Yugeさんが同装置を用いて行ったES細胞に関する研究です。

 Leukemia inhibitory factor(LIF)はES細胞の多分化能を維持する為に利用されますが、再生医療などの目的でES細胞を用いたい場合にはそういった物質の利用なしにより安全な調製が望まれます。著者らの行った過去の研究で微重力が骨芽細胞の分化を抑制することが分っていました。そこで、この研究では微重力下で培養することでES細胞をLIF-freeで維持することを試みました。

 LIF抜きのfeeder-free and serum-free ESF-C mediaを用いて1GでES細胞飼ったところ、形がES細胞と異なってしまいました。同じ培地を用い、μGでES細胞飼ったら形は通常のES細胞一緒で7日で8倍に増殖しました。真にES細胞であるか調べる目的でAlkaline phosphataseで染めたところ、ES細胞と同じ性質を示しました。また、1Gの区画では3日後にSox2の、7日後にOct-4,Nanogの発現が減少したのに対し、μGではそれらの減少は起こりませんでした。また、テラトーマテストも行い多分化能を示しています。



 機械の世界では、無重力下であればより精密な工作が出来るんじゃないか、というような研究も行われているそうですが、細胞の世界でも微重力環境を利用してこれまで作れなかったものが作れた、というのがとてもいいと思いました。そのうち微重力工場なんてのも出来るかもしれませんね。補足ですが、3Dクライノスタットは装置内の物体にとっての重力を球状に回転させることで”時間当たりの”重力を0にするものらしいです。映画の宇宙飛行士が訓練で乗ってるクルクル回る椅子みたいなものですね。重力を打ち消す、というわけではないようです。μGというのは装置内に加速度計でも入れて測定したんじゃないかと推測しています。
 

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by koretoki | 2009-08-28 17:40


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