したっぱ昆虫細胞研究者のメモ

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2008年 12月 03日

昆虫初代培養用MX培地

PubMedで「MX medium primary culture insect」を検索しても出ないと思ったら特許で見つけました。
最近PubMedの表示変わりました?

今西 重雄、羽賀 篤信、三橋 淳
昆虫細胞初代培養用培地、細胞外マトリックスおよびこれらを用いた短期間での昆虫培養細胞株作出法
特開2006-136339(P2006-136339A)

著者らは、細胞系樹立を目的とした昆虫細胞初代培養に適した培地を作りました。
また、昆虫由来の水溶性キチンで培養基材をコートし、細胞接着を促進しました。

 組成表を見て、MGM450培地とMM培地を混ぜたらいけるんじゃないかと思いました。MX培地で作出された鞘翅目の培養細胞株はありましたっけ?日本で作出された鞘翅目の培養細胞株はオオスジコガネFRI-AnCo-5B、ブドウトラカミキリXP-1、ドウガネブイブイTUAT-AnCu-35、クリストフコトラカミキリPC-1の4つで、どれもMGM450培地を用いていたと思います。キチンコートは昔、北海道の方がカニの殻から作ってましたが、そのときのディッシュは白いキチンが縦横無尽に走っており、観察には邪魔そうでした。観察しやすいキチンコートディッシュは使ってみたいです。


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# by koretoki | 2008-12-03 01:47
2008年 11月 29日

免疫の学習の主役は血球です

昆虫は抗体を持たず、人間が持つ後天免疫を持ちません。しかし、最近の研究では、昆虫の自然免疫系にも、適応しながら働く性質があることが示唆されてきました。また、ある菌の侵攻を受けた雌の子どもが、その菌に対する耐性を持つ現象も見つかっています。
著者らは、同じ病原に対する2度目の応答の適応が、AMPsではなく、血球の貪食作用によることを示しました。

Linh N.Pham,Marc S.Dionne,Mimi Shirasu-Hiza,David S.Schneider
A Specific Primed Immune Response in Drosophila Is Dependent on Phagocytes
PLoS Pathogens March2007 Vol.3 Issue 3 e26
まず、肺炎球菌Streptococcus pneumoniaeを用いた「予防接種」が有効であることから、ハエの免疫応答が適応することを示しました。

次に、ある病原への適応が、他の病原への適応を引き起こすかどうかしらべるため、熱処理した菌で予防接種した個体に、病原を与え、生存率を見ました。
結果、引き起こすことはなく、また、半分以上の菌では、その菌に対する適応すら引き起こしませんでした。
むしろ肺炎球菌のほうが特別なようです。

そこで、肺炎球菌以外の菌で予防接種した個体が肺炎球菌への適応を示すか調べました。こっちも起こりませんでした。
こうして、肺炎球菌がハエの肺炎球菌耐性を特異的に誘導する事が分かりました。


ハエの免疫系では、Toll pathwayとimd pathwayが良く研究されています。そのどちらが免疫の適応に効いているのかを調べるために、それぞれの欠損ミュータントを用いて予防接種の実験を行いました。
結果、Tollがクリティカルな要因で、imdは免疫適応に必要ないことがわかりました。

最後に、液性応答(AntiMicrobialPeptide)、細胞性応答のどっちが免疫適応に関わるのかを調べました。
肺炎球菌に暴露した時のdefensin転写量をqRT-PCRで測り、肺炎球菌がdefensinの転写をあまり誘導しない事と、AMPは1週間も経つとピークが消えてしまって、これは免疫適応の持続時間と合わないことからAMPは免疫応答のcriticalな要因でないことが示されました。
また、ビーズ(貪食の対象となる)の挿入による血球の貪食の阻害が、肺炎球菌暴露個体の生存率を下げる事が、貪食が免疫適応に必要であることを示しました。
予防接種の際にビーズを与えると免疫適応が阻害される事も上記の考えを支持します。

ちなみに、肺炎球菌で予防接種した個体のE.coliに対する適応は、起こりませんでした。




植物では、ある病原の侵入が防御系全体の活性を高めること、が大事らしいので、やっぱり違うんだなと思いました。
あと、一般的に昆虫の免疫はこうだ、というよりかは病原の種類によって活躍する免疫の種類が違うって話の方がしっくりくると思います。

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# by koretoki | 2008-11-29 04:24
2008年 11月 27日

免疫による自傷<マルピーギ管の場合>

昆虫の自然(innate)免疫は、体液性の免疫、メラニン化、細胞性免疫で構成されています。
液性免疫であるフェノールオキシダーゼがもたらす自傷を避けるため、周辺の組織表面をメラニン化して守る働きが観察されますが、著者らは、これが組織を障害すると考えました。

Ben M.Sadd and Michael T.Siva-Jothy
Self-harm caused by an insect's innate immunity
Proc.R.Soc.B(2006)273,2571-2574

実験にはチャイロコメノゴミムシダマシtenebrio molitorが用いられました。isofemale lineの中から、体重が0,10-0,11gの個体のみを選んで使いました。
e0160319_12171216.jpg

まずは、免疫反応によるメラニン化を、他個体から移植したマルピーギ管で観察しました。
免疫反応はナイロンファイバーで誘導しました。
図のように、ナイロンファイバーの近くに移植されたマルピーギ管の方が、激しくメラニン化されました。ナイロンファイバーを挿入されていない個体に移植したマルピーギ管はメラニン化されませんでした。
e0160319_12172431.jpg

つぎに、ナイロンファイバーを挿入した個体のマルピーギ管と、ナイロンファイバーを挿入するのに十分な穴を開けた(NF入れない)個体のマルピーギ管の運動を比べました。
マルピーギ管のアッセイには、図にしめした'oil drop'テクニックが用いられました。
実験はnatural oilの中で行います。
マルピーギ管の一端は生理食塩水に浸たし、もう一端を浸さないようにします。
すると、マルピーギ管の蠕動運動によって一端から生理食塩水がマルピーギ管の中を通り、矢印の方向に反対の端に運ばれます。
そうして出来た油の中の生食の雫の量をを、画像処理によって測り、その大きさをマルピーギ管の元気さの指標としました。
結果、ナイロンファイバーを挿入した群は、挿入しない群より有意に元気がなくなりました。
グラフを見ると大体2/3くらいになっています。



a modified 'oil drop' techniqueかっこいいです

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# by koretoki | 2008-11-27 12:20
2008年 11月 26日

抗生物質はいきなり使うものじゃない

昆虫が体内に分泌する抗生物質は、侵入する微生物を殲滅するというよりかは、血球が食べた後に体内に残ってる微生物を抑えるためでした。
Eleanor R. Haine,Yannick Moret,Michael T. Siva-Jothy,Jens Rolff
Antimicrobial Defense and Persistent Infection in Insects
Science 21 November 2008:Vol. 322. no. 5905, pp. 1257 - 1259

日本語abstがついてたので貼り↓
 昆虫が地球上に存在するようになって4億年間、昆虫の持つ強力な抗菌性免疫防御機構に対して、細菌が抵抗性を進化させて、昆虫が死滅したことはほとんどない。今回われわれは、感染後の細菌排除が極めて速やかにおこり、かつ誘導性の抗菌活性が上昇し始めるのは、大部分(99.5%)の細菌が駆逐された後のみであることを発見した。われわれの実験により、昆虫の恒常的な免疫応答を受けて生き残った細菌は、その後に抵抗性が高まることが判明した。これらの結果から、誘導された抗菌物質は細菌感染の解消に働くのではなく、おもに昆虫の体内に持続的に存在する細菌から昆虫を守るために機能していることが示唆される。これらの発見は、自然界においてどのように抗菌ペプチドが用いられているかを理解することで、薬剤抵抗性のリスクを回避する治療戦略が明らかになる可能性を示している。



昆虫が微生物の侵入を受けた時、いつもONになってる「血球やフェノールオキシダーゼを用いた防御」と、侵入を受けて誘導される「抗生ペプチド分泌による防御」の2つの反応が起こります。
後者の誘導性の反応は、被侵入後1-3時間経って誘導されます。その後12-48時間後にピークを迎え、1週間以上残ります。
免疫反応には、多くのコストがかかるため、このような長期に渡る反応には、適応的な意義があると考えられてきました。
しかし、最近、ショウジョウバエで、同じ微生物2度目の侵入の際に、抗生ペプチドよりも血球が多く働いていることがわかりました。
一方で、著者らは、長期に渡る抗生ペプチドの働きが、血球に耐性を持った微生物を仕上げるためだ、と提唱してきました。

これらの前提に立って、3つの予想を立てました。
1:微生物のほとんどは抗生ペプチドが誘導される前に殺される。
2:いくらかの微生物は血球から逃れて生き残る。
3:そうして生き残った微生物は寄主の免疫に高い耐性を持つ。

確かめるために実験をしました。
実験には甲虫のTenebrio molitor雌成虫とStaphylococcus molitorを使いました。

まず、虫に注入した多量の菌の生存率を調べました。
結果、菌の99,5%が最初の30分で死にました。
次に、菌を注入した虫の血液を取り、そこから細胞を取り除いたものの、殺菌活性を調べました。
結果、1時間後から活性が出始め、1日ほどでピークを迎えました。7日目から下がり始めましたが、28日目でもピークの1/5ほどの活性を保っていました。
これで仮説1が説明されました。


続いて仮説3の説明です。
著者らは「虫に注入して生き残った菌」と「虫に注入してない菌」を、感染の経験のない虫に注入し、菌の生存率を調べました。
結果、「注入して生き残った菌」が有意に多く生き残りました。


こうして、抗生ペプチドが血球の食べ残しの微生物を抑えるために産生されている、という考えが示されました。

特に説得力があったのは、抗生ペプチドについて「次の侵入に対する予防、という説明では最低2回の侵入が必要である。しかし、食べ残しを抑える、という説明なら、1回の侵入で十分である。」とした節です。


カブトムシのディフェンシンだったらこれで説明が付く気がしますが、モンシロのピエリシンはどうなんでしょうね??
今回は、微生物に関する話でしたが、昆虫の防御は寄生蜂にもベクトルが向いてると思います。
それも含めてきりっと説明できたらかっこいいですね


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# by koretoki | 2008-11-26 13:54
2008年 11月 25日

JH単独で細胞増殖阻害をする場合

ノシメマダラメイガ成虫盤由来細胞系、IAL-PID2を使った論文3報目。

H.Oberlander,C.E.Leach,E.Shaaya
Juvenile hormone and juvenile hormone mimics inhibit proliferation in a lepidopteran imaginal disc cell line
Journal of Insect Physiology 46(2000)259-265

著者らは、JHとJH類似物を培養細胞に与え、細胞増殖が邪魔されるのを観察しました。
JH1,JH3,methoprene,fenoxycarb,linoleic acid(control)が10,50,100ug/mlの力価で添加されました。
JHを培地に溶かすことは難しいので、一度アセトンに溶かしたサンプルを、脂肪酸フリーのアルブミンに吸着させ、それを培地に溶かす方法を取りました。

結果、JH1の場合、50ug/ml以上の時、増殖阻害が起こりました。JH3では、100ug/mlの時だけ増殖阻害が起こりました。
Methopreneでは100ug/mlの時だけしか増殖阻害が起きない一方、Fenoxycarbでは50ug/ml以上で増殖阻害が起きました。
Methopreneの方がFenoxycarbよりも、JHに似た構造なのに、Fenoxycarbの方が低濃度で効いたのは面白いところです。

また、論文の増殖曲線はNijhoutの提唱する、「JHの効果はpresence or absenceが重要で、血中濃度に比例しない」という考えに適合しています。

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# by koretoki | 2008-11-25 12:53