2008年 12月 15日

続・ハエのがん

ハエ(Drosophila)のがんのレビューです。
ハエのがんの研究から得られた知見が、どの程度ヒトのがんの解明や治療に役立つのか興味深いところです。

David Bilder
Epithelial polarity and proliferation control:links from the Drosophila neoplastic tumor suppressors
GENES & DEVELOPMENT 2004 Aug 15;18(16):1909-25.

このレビューでは、
lethal giant larvae(lgl)、disks large(dlg)、scribble(scrib)の、ひとつのpathwayで働く3つのがん抑制遺伝子について紹介していて、大まかに3つのセクションに分かれています。

1、3つの遺伝子の機能
2、ヒトのがんとハエのがんの類似点
3、polarityとproliferationが共働する機構

前回に引き続き、今回はヒトのがんとどのくらい似てるのか、から書きます。

●ヒトのがんとハエのがんはどのくらい近いのか
ハエの1遺伝子の変異でヒトのがんと似た現象が起こる。
nTSG変異細胞はApoptosisもする。
Apoptosis耐性は過剰な増殖と関係ない。
ハエのがんもヒトのがんも異数化、多核化しない。
ハエのテロメーゼはテロメアの伸張に無関係。
ハエの3つのnTSGのうちひとつの変異で十分である。
ハエはひとつ、ほ乳類は複数の変異ががん化に必要。
それは寿命の長さの違いによるものではないか。
ハエでは、ほ乳類のようなバックアップやチェックポイントがない?
nTSG変異細胞が全てがん化するわけではない。imaginal diskだったら必ずなるけど。
増殖の遅い細胞の場合、周囲の細胞との競争によってApoptosisしたりする。(Myc関係)
nTSGの変異によるがん化は(ヒトのハエのも)独自のpathwayにを持っている。

●cancerで、脊椎動物のnTSGの役割は何か。
Scribはひとつの(hScrib)
Dlgは4つの(hDlg,Chapsyn-110,NE-Dlg,PSD-95)
Lglは2つの(Llgl1,Llgl2)
ホモログがある。
nTSGは進化的に保存されている。
ほ乳類のnTSGホモログはがん化を制御する。
がん化蛋白は、例えばp53の場合のようにがん抑制蛋白と結合し不活化する。
そのひとつの対象はPDZ蛋白である。
ヒトパピローマウィルスHPV(子宮頸がんウィルス)の場合、E6はがん抑制遺伝子であるp53と結合し分解することで発癌に寄与している。E6はそれ以外にもhTERTの再活性化やPDZドメインを持つたんぱく質を分解することで発癌に寄与している。
そして実際、HPV陽性の悪性腫瘍にはhScribの活性がない。

●ほ乳類の表皮での極性と増殖のコントロール
あんまりだから割愛



ハエでのがんの研究はそれなりにヒトのがんの研究に役立つようです。
今回nTSGの例のように進化的に保存された遺伝子であれば、バックアップもチェックポイントもない非常に単純な系で、ヒトのがん研究が出来るので有益であるようです。
実際Scribでは研究が進み、Scribの欠損がApoptosis耐性を与える事で細胞のがん化を促進するそうです。あれ?ハエのと機能違う?


応援よろしくお願いします。
FC2 Blog Ranking

[PR]

# by koretoki | 2008-12-15 14:27
2008年 12月 13日

浸潤転移するハエのがん

ハエ(Drosophila)のがんのレビューです。
ハエのがんの研究から得られた知見が、どの程度ヒトのがんの解明や治療に役立つのか興味深いところです。

David Bilder
Epithelial polarity and proliferation control:links from the Drosophila neoplastic tumor suppressors
GENES & DEVELOPMENT 2004 Aug 15;18(16):1909-25.

このレビューでは、
lethal giant larvae(lgl)、disks large(dlg)、scribble(scrib)の、ひとつのpathwayで働く3つのがん抑制遺伝子について紹介していて、大まかに3つのセクションに分かれています。

1、3つの遺伝子の機能
2、ヒトのがんとハエのがんの類似点
3、polarityとproliferationが共働する機構

長いので数回に分けて記述するつもりです(汁

1967年、ハエのがんは見つかった。
「細胞が急速に増殖し出血し個体を死に至らしめる変異体」であり、「振る舞いが悪質のがんに似ている」と記述されている。
その後、体細胞ハイブリッドを用いた実験によって、がん抑制遺伝子tumor-suppressor gene(TSG)が見つかった。
ヒトのがんとの類似性も議論さるが、TSGについて比較すると、ホモロジーが低いことや、細胞内の局在が異なる事が指摘されている。


●ハエのがん抑制因子
無脊椎動物のがんは一般に少ないとされるが、ハエのがんはスクリーニングによって見つかってきた。スクリーニングの性質上、がんを引き起こすものより、TSGとして見つかっている。
変異体でみつかったがんの異常増殖は、imaginal discを見ることで分析できる。
ハエのがんには大きく2つ、hyperplastic(過形成)とneoplastic(新生物)とがあり、前者は急速に増殖するものの、形は正常細胞と同じで、単層で増える。対して後者は、丸い形で単層をつくることはできない。

●neoplastic tumer-suppresser gene(nTSG)
現在3つのnTSG(lgl,dlg,scrib)が見つかっている。
これらの変異体幼虫は、3齢まで正常に発生する。
しかし、その後彼らは蛹化せず、2週間ほど死ぬまで育ち続ける。彼らの体長は伸び、体はふくれあがるため、giant larvaと呼ばれる。体内では、imaginal表皮と神経が異常に増殖している。さらには、脳もoptic lobeの過形成によって伸びている。
これら表現型の相似が、nTSGが共通のpathwayで動くことを示唆する。

●nTSGがコードする蛋白
3つのnTSG全てが、転写因子ではなく細胞質蛋白をコードしている。Dlg,Scribはともにscaffold蛋白であり、Lglの昨日は不明だが、前記の2つによって補填されるとされている。

●polarityとnTSG変異細胞について
正常な上皮細胞は、正常な細胞の形、強い接着、単層の形成、頂低極性をもっている。
変異細胞は、丸く、接着性は低く、多層を形成します。重要なのは、極性の喪失が他の形質を引き起こす最初の変化とされていること。
正常ならapical部に局在する蛋白が、変異体では細胞表面に自由に散らばっていることが、nTSGがクリティカルに細胞表面構造を調節していることを示唆している。
インテグリンによるマトリクスへの接着はハエの頂低極性には関係ないとされている。
3つのnTSGに加え5つの遺伝子が上皮の極性を決めるとされていて、8つの遺伝子は基本的に3つの蛋白複合体をコードしている。
Crombs,Par-3などがここでは取り上げられているが、nTSGと他の極性遺伝子の調整段階の分子機構は良く分かっていない。
nTSGの極性に関する機能は上皮だけに限らず、神経でも働いている。

●proliferationについて
細胞の異常増殖は細胞分裂チェックポイントが効かなくなることで引き起こされるが、ハエのimaginal diskではG1/Sレギュレータcyclin Eがそれに当たる。
実は、若い幼虫時のnTSG変異体のdiskは正常個体のそれより小さいことも知られている。孵化5日目では野生型の1/3しかない。しかし、蛹化の時期に10日以上増え続け、野生型の5倍に達する。
蛹化失敗自体は細胞増殖の原因にならず、変異体でもエクジステロイドパルスを消されると異常増殖は起きない。
変異体のdiskを野生型に移植すると異常増殖が起きて宿主を殺すが、野生型のdiskを変異体に移植しても異常増殖は起こらない。
polarityとともに、proliferationは上皮だけでなく、神経組織でも働く。
全ての分化する細胞がnTSG変異による変形を起こすわけではない。

●differentiationについて
nTSG変異体の細胞は最終的に分化能を持たない。

●invasionとmetastasis
nTSG変異細胞は浸潤の性質を見せる。
卵巣上皮のnTSG変異細胞は上皮を離れて胚盤胞に侵入する。
野生型にnTSG変異細胞を移植すると転移する。
脳はもっとも浸潤されやすい組織だが、2次転移は他の部分にも育つ。




ショウジョウバエのがんは、白血病風の血球のものしか知らなかったので、固着組織由来で、転移浸潤もするような、がんらしいがんがハエに存在すること自体が非常に面白いです。
また、imaginal diskが異常増殖し、蛹化までは正常に育つところも、変態の前後で細胞の極性を司る因子が異なることを示唆し、またそれを変態に利用している可能性もあって、興味深いです。


次は、ヒトのがんとどのくらい似てるのか、から書きます。



人気ブログランキングに参加しています。
FC2 Blog Ranking

[PR]

# by koretoki | 2008-12-13 07:44
2008年 12月 10日

足場がないと自殺もできません

Scribbleは細胞の足場蛋白の遺伝子です。
これを失うことで細胞のアポトーシスが抑制され、がん化を促進することが分かりました。

Zhan L, Rosenberg A, Bergami KC, Yu M, Xuan Z, Jaffe AB, Allred C, Muthuswamy SK.
Deregulation of Scribble Promotes Mammary Tumorigenesis and Reveals a Role for Cell Polarity in Carcinoma
Cell. 2008 Nov 28;135(5):865-78.

著者らは、非がん性の表皮系細胞系であるMCF-10Aを用いて実験をおこないました。
ScribbleをRNAiでノックアウトすることでアポトーシスのマーカーである活性型Caspase-3がなくなりました。
また、がん遺伝子であるE7を導入したMCF-10A細胞でも同じことが確かめられたため、Scribbleががん遺伝子と共同でがん化を引き起こしているのではないか、と著者らは述べています。

さらに、移植すると2次肺(2次胚ではない)をつくる細胞系COMMA-1Dβgeo(CD)細胞系を用いた実験では、ScrbbleのRNAiによるノックアウトによって、気管の空間がほとんどなくなり、がん化することも示されました。

形成異常によるアポトーシスの減少と、過形成によってがん化が起こるのではないかと考察しています。



がん化していないとされる細胞系は、形成異常なしに過形成した細胞群と捉えていいのでしょうか?
そうするとSf-9なんかは、完全に無極性ですし、がん化している?
また、コントロール群のMCF-10A細胞で、写真に写っている総ての細胞が活性型Caspase-3を持っているのが、とても不思議でした。(Fig.1B)

人気ブログランキングに参加しています。
応援よろしくお願いします。
FC2 Blog Ranking

[PR]

# by koretoki | 2008-12-10 18:37
2008年 12月 08日

溶液中の細胞を観察できる走査電子顕微鏡

http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2008/pr20081208/pr20081208.html
産業総合研究所が、溶液中の細胞を観察できる走査電子顕微鏡を開発したことを発表しました。

従来の電子顕微鏡は、固定し脱水した資料でないと見ることが出来ませんでした。
固定する必要があるので、1サンプルで変化を見ることはできませんでした。
脱水は非常に面倒な処理であり、ほぼ1日かかります。

今回の発明によって、細胞を生きたまま電子顕微鏡で見れるようになりました。
この技術は従来の操作型電子顕微鏡とあまり変わらない機械で実現可能なため、コストも従来型よりそう高くならないことが期待できます。
数年で普及しそうですね。

感動しました!!
e0160319_22241860.jpg

[PR]

# by koretoki | 2008-12-08 22:35
2008年 12月 04日

生物時計のケース的存在?

生物時計は転写のフィードバックで組まれたループで出来ていると考えられています。
例えば遺伝子AとBがあって、Aが転写され始めて1時間後にAの転写産物がBの転写を促進し、Bが転写され始めて1時間後にBの転写産物がAの転写を促進するようになっていれば、ぐるぐる無限に続いて時計として機能しますよ、という話です。
それに関わる遺伝子の発現パターンの脳内の局在をコオロギで見ましたよ、という論文。

Shao QM, Bembenek J, Trang le TD, Hiragaki S, Takeda M.
Molecular structure, expression patterns, and localization of the circadian transcription modulator CYCLE in the cricket, Dianemobius nigrofasciatus.
J Insect Physiol. 2008 Feb;54(2):403-13.


ショウジョウバエの転写因子、CYCLEとCLOCKはperiodとtimelessの上流にあるとされ、periodとtimelessの転写産物であるPERとTIMは、CYCLEとCLOCKと相互作用しながら自信の転写を抑制します。
ショウジョウバエでは、PRE、TIM、CLOCKは周期的に発現し、CYCLEは一日中ずっと存在すると言われています。

著者らは、CYCLEとCLOCKの転写産物に対する抗体を調製し、4時間おきに1日6回コオロギの脳を切って免疫染色し、脳内のCYCLE及びCLOCKの局在を調べました。

結果、CYCLEは脳内の様々な箇所で、時間による差が無く存在している事が分かりました。
写真を見ると、細胞の膜の方、外側の方が染まっているように見えます。
CYCLEもCYCLEと同じように、脳内の様々な箇所で、時間による差がなく存在しています。
こっちは、核が染まっている写真がありました。



CYCLEとCLOCKがどうやって見つかったのか知りませんが、もしショウジョウバエでのKO実験から、生物時計に関連すると考えられたなら、時計のムーブメントではなく、ケースの部分のような働きの遺伝子であってもいいのかなと思いました。



おねがいします↓
FC2 Blog Ranking

[PR]

# by koretoki | 2008-12-04 04:29