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したっぱ昆虫細胞研究者のメモ

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2009年 01月 18日

コロラドハムシ卵由来セルラインは神経由来だった

卵由来のセルラインの場合、どこの組織由来の細胞なのか分からない、という欠点がありますが、それは同時にexplantしにくい、あるいは培養しにくい組織由来のセルラインを樹立できる可能性を秘めています。
今回は、そんな卵由来セルラインのキャラクタリゼーションから、神経由来の細胞であることが推察された話を紹介します。

1996年当時、世界には400の昆虫セルラインが存在し、そのうち鞘翅目由来のものは3つで、また、神経に由来するものは1つもありませんでした。
著者らはジャガイモの害虫であるcolorado potato beetleの卵から、IPLB-CPB2を樹立しました。

Sheppard CA, Lynn DE.
Immunoreactivities for calcium signaling components and neural-like properties of a Colorado potato beetle cell line.
Arch Insect Biochem Physiol. 1996;33(3-4):197-209.

著者らは以下のそれぞれについて抗体を作成し、CPB2にかけて、CPB2がどれも持っていることを示しました。
1、neurofilaments:神経細胞または前駆細胞で見られる細胞骨格
2、type1 inositol trisphosphate receptor:ハエではアンテナとretinaで見られる
3、SERCA2:ポンプ
4、ryanodine receptor:ハエでは胚の筋肉、成虫のventral ganglion、脳表面で見られる

2-4はすべてカルシウムシグナリングに関わるチャンネル、ポンプです。

さらに著者らは、細胞表面の電位をはかりました。
そして、ライトを当てると、電位が変化することを示しました。

保持する細胞骨格、チャンネルタンパクが神経細胞のものであるので、このセルラインは神経由来であると推察されます。
また、活動電位を生じることや光受容体を持つこともその推察の説得力を高めています。
昆虫の場合、光受容体は神経細胞のみで発現するとされています。




神経細胞は農薬のターゲットであるため、コロラドハムシのような農業害虫の神経由来セルラインはスクリーニングに役立ったのだと思います。
また、これらの特性がいつまで維持されるのか、非常に興味のあるところです。

やっぱり細胞に見られてるんだ・・・

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# by koretoki | 2009-01-18 14:58
2009年 01月 15日

同じセルラインを違う培地で長期間飼うとどうなるのか

Lynn DE.
Lepidopteran cell lines after long-term culture in alternative media: comparison of growth rates and baculovirus replication.
In Vitro Cell Dev Biol Anim. 2006 May-Jun;42(5-6):149-52.

用いられたセルラインは3つ。(由来組織、樹立培地)
IPLB-LdFB(gypsy moth fat body,Goodwin's IPL-52B,76(3:1))
IPLB-LdEIta(gypsy moth embryos,上に同じ)
UFL-AG-286(velvethean caterpillar embryos,Grace's medium)

用いられた培地は2つ。
TC-100 (containing 9% fetal bovine serum)
Ex-cell 400 (serum free serum)

3つのセルラインはTC-100で12年、Ex-cell 400で3年(LdFB),12年(LdEIta),1.5年(AG-286)飼われています。
まずはそれぞれのセルラインのそれぞれの培地でのgrowthが測定されました。
結果、
LdFBではどちらの培地でも同程度の増殖、
LdEItaではTC-100で高い増殖、
AG-286ではEx-cell 400で高い増殖が得られました。

次にウィルス感受性が調べられました。
結果、
LdFBではEx-cell 400の方がよく感染しました。
LdEItaでは用いたウィルスの両方でTC-100でよく感染しました。
AG-286では用いたウィルスの片方では差がなく、もう一方ではTC-100でよく感染しました。

さらに、ウィルスの生産性が調べられました。
いずれの培養でも差が少なく、唯一AG-286を用いた実験の片方のウィルスでTC-100の方がsignificantに高い生産性を示しました。

著者は、細胞の高い増殖が得られる培地が、必ずしもウィルス生産にも適した培地とは限らない、と述べています。


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# by koretoki | 2009-01-15 03:24
2009年 01月 15日

カイコはsmall RNAでトランスポゾンをコントロールしてる

先日ショウジョウバエのテロメアについてのレビューを紹介しましたが、やはりトランスポゾンをコントロールする方法が存在するようです。

Kawaoka S, Hayashi N, Katsuma S, Kishino H, Kohara Y, Mita K, Shimada T.
Bombyx small RNAs: Genomic defense system against transposons in the silkworm, Bombyx mori.
Insect Biochem Mol Biol. 2008 Mar 27.

small RNAには、microRNAs(miRNAs)、small interfering RANs(siRNAs)などがあり、mRNAの分解、転写抑制、ヘテロクロマチン構成、DNA除去などの役割を担っていると考えられています。
siRNAsはRNAiに関連して有名ですが、長いdouble stranded RNA(dsRNA)をRNase Ⅲ-like enzyme Dicerが約21ntにカットすることで産生されます。
最近small RNAの3番目のクラスとしてpiwi-interacting RNAs(piRNAs)が注目されています。piRNAは26-33ntと、siRNAs(21-23nt)より長く、ArgonauteプロテインファミリーのサブクレードメンバーであるPiwiと会合する特徴があります。
ショウジョウバエのgermlineを用いた研究で、piRNAsがトランスポゾンをサイレンシングすることが分かってきました。

著者らはカイコの卵巣由来RNAsから67,700配列38,493種のsmall RNAを同定し、キャラクターを調べました。



釣ってきたsmall RNAのうち72%の27,815種がカイコゲノムのnew scaffoldと一致しました。完全一致したもののうち46%はrasiRNAにクラス分けされ、これらはゲノム中に5回以上hitするand/or ReASに少なくとも1度反復します。
rasiRNAに分類されたsmall RNAsはlong terminal repeat(LTR)、クラスⅡDNAトランスポゾン、short interspersed nuclear element(SINEs)を含む様々なトランスポゾン因子にhitしました。

SART1とTRAS1はよく解析されたテロメア特異的non-LTRレトロトランスポゾンですが、small RNAsのうちそれらと合致するものはそれぞれ131kinds(387clones),10kinds(11clones)でした。
ショウジョウバエではテロメアがHeT-A,TAHRE,TARTなどのテロメアレトロトランスポゾンによって維持されることが示されていて、かつ、RNAiベースのTARTサイレンシングが起きていることも報告されています。
カイコでも、SART1にhitするrasiRNAsがRNAiベースのテロメア維持に関わっていることが推察されます。



エキロロアンしました。
これはもうやるしかないでしょう

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# by koretoki | 2009-01-15 02:52
2009年 01月 10日

イオンチャンネル型匂いレセプターの発見;ショウジョウバエ

昨年の4月に匂い受容体として7回膜貫通型タンパクについての発表がありましたが、ショウジョウバエでは匂いセンサーのニューロンのすべてが匂い受容体としてそれを発現しているわけではありません。
今回著者らは、イオンチャンネル型のグルタミン酸レセプターに関連した未知の匂い受容体を発見しました。

Richard Benton,Kirsten S.Vannice,Carolina Gomez-Diaz and Leslie B. Vosshall
Variant Ionotropic Glutamate Receptors as Chemosensory Receptors in Drosophila
Cell, Volume 136, Issue 1, 149-162, 9 January 2009
著者らはハエのアンテナで発現する遺伝子についてのバイオインフォマティックなスクリーニングから、61の遺伝子ファミリーに注目しました。
分子構造的にグルタミン酸レセプターに似ていたそうですが、よく見ると似てるけどグルタミン酸レセプターではなく、他のリガンドと引っ付くようです。
で、以下の7つの理由で、これを新しい匂いレセプターIonotropic Receptors(IRs)としたそうです。

1、IRsの15のmRNAは成虫のアンテナで特異発現。
2、匂い受容ニューロンの樹状突起でIRs抗体が光った。
3、IRを持つ匂い受容ニューロンはOr83b(7回型)を発現しない。
4、coeloconic小感覚子発達異常ミュータントはIRを発現しない。
5、ニューロンの4つのクラスターのIR発現が、4つのcoeloconic小感覚子の生理学特徴と相関する。
6、通常匂い受容を投射するニューロンは軸索に糸球体一つつくるが、Ir76a-GAL4でラベルした軸索はcoeloconicからの入力を処理するとされる一つの糸球体に収束する。
7、IRをmisexpressionさせると新しい匂い感受性が表れる。

ひとつのニューロンにひとつしか発現しない他の匂い受容体と違って、IRはひとつのニューロンにいくつも発現するそうです。
混乱しない仕組みはどうなっているのでしょうか?
グルタミン酸レセプターと同じ仕組みなら誰がbindしても陽イオン流入して反応してしまうように思うのですが・・・



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バイオインフォマティクスすげー

# by koretoki | 2009-01-10 03:55
2009年 01月 08日

ラッテ骨髄細胞に対するGFとECMの作用の相互関係

細胞がいる微細環境は、主に、液性のgrowt factorと細胞外マトリクスの2つの要素で構成されています。
著者らは、2種類のgrowth factorと1種類の細胞外マトリクスの、骨髄より分離される幹細胞(BMSCs)に対する
効果を定量的に調べました。

Geng T, Sun H, Luo F, Qi N.
Quantitative analysis of the responses of murine bone marrow mesenchymal stem cells to EGF, PDGF-BB and fibronectin by factorial design methodology.
Cytotechnology. 2008 Oct;58(2):93-101. Epub 2008 Oct 21.

細胞はラッテの骨髄より分離したBMSCを
growth factorにはEGFとPDGF-BBを
細胞外マトリクスはfibronectinを用いました。

まず、BMSCが骨形成細胞と脂肪細胞に分化しうることが確かめられ、次に、3種の微細環境構成因子がBMSCの増殖に与える影響を調べました。

結果、EGFとPDGF-BBは単独で増殖を促進しましたが、fibronectinは単独で影響を与えませんでした。
EGFとPDGF-BBを合わせて用いると、拮抗作用しました。
これは、同じレセプターをターゲットにするためと説明されています。
また、growth factorとfibronectinを合わせて用いた場合、用いるgrowth factorがEGFの場合には効果が落ち、PDGF-BBの場合には効果が上がりました。
ここが非常に面白いと感じました。

EGF,PDGF-BB,fibronectinの3つを用いて培養した場合に、細胞の大きさが小さくなり、より細長い形態を示しました。
このデータのために著者らは画像認識ソフトを用いていますが、解析に使われる画像は培養の中から"typical fields"を主観で選択しています。
現行の顕微鏡では培養全体を1度に捉えることは出来ず、解析に用いる視野を決める必要があるのが画像認識ソフトを用いた解析の欠点であると思います。
これが改善されて培養の全体を解析できるようになれば、私も是非使いたいです。



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# by koretoki | 2009-01-08 23:44