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2016年 06月 24日

培養改善を目指した開発を行う前に確認しておきたいトランスクリプトーム

数十mlのフラスコでの培養の結果と、数Lのジャーでの培養の結果が一致しないことはよくあります。というか、ほとんど一致しないと思います。
その原因をアレイで調べ、培養方法を変えてフラスコとジャーの結果を一致させた研究です。

PMID: 25271019
Hypoxia influences protein transport and epigenetic repression of CHO cell cultures in shake flasks

著者らの先行研究で、フラスコ培養において銅の添加が細胞増殖や組み替えタンパク質生産量が改善できるというものがありましたが、ジャーで再現することができませんでした。
フラスコとジャーが一致しなかった原因を調べるため、それぞれで培養したCHO細胞をマイクロアレイで分析しました。
分析の結果、
タンパク質の細胞内輸送に関わる遺伝子の発現量がフラスコ培養<ジャー培養、
エピジェネティック制御に関わる遺伝子の発現量がフラスコ培養>ジャー培養、
となっていた他、低酸素状態で発現する遺伝子の発現がフラスコ培養>ジャー培養となっていました。

そこで、先の銅添加による培養改善効果をジャーで再現するため、ジャーでの培養を元々のDO60%からDO15%に下げて実験を行いました。
DOを15%まで下げた結果、金属イオン(銅とか鉄とか、と論文中にはフワッとした記述)による培養改善効果がジャーで再現したとのことです。

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培養改善のための開発を行う前に、実生産タンク培養中のCHO細胞のデータと開発時の評価系に用いる培養中のCHO細胞のデータを比べておいて、ここならこの系で開発しても実生産タンクに持っていけるなっていうのを確認しようと思いました。
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by koretoki | 2016-06-24 17:15
2016年 06月 21日

自殺を止めて増産させる:アレイから見つけた遺伝子が実際に良い遺伝子であった例

前回に引き続き「トランスクリプトーム解析から見つけた遺伝子が実際に良い遺伝子だった」例を取り上げます。
今回の研究は、アレイで良い遺伝子を見つける論文と、見つけた遺伝子の良し悪しを調べた論文に分かれています。

アレイで良い遺伝子を見つける方
PMID: 16570314
Transcriptional profiling of apoptotic pathways in batch and fed-batch CHO cell cultures.
培養細胞を用いたタンパク質製造工程では、培養皿の代わりにジャーなどを使ってバッチ培養(BC)、またはフェドバッチ培養(FBC)を行います。バッチとはフラスコに張り込んだ培地に細胞を加え、途中一切培地等の添加を行わずに最後まで培養を行うものです。フェドバッチ培養では、培養の経過に伴ってフィード培地を加えます。また、pH、DO等をコントロールすることも多いです。FBCの方が長期間培養可能ですが、いずれの培養においても最終的に細胞は死滅します。死滅の原因はアポトーシスと考えられますが、小胞体ストレスへの応答としてのアポトーシスなのか、DNA損傷などによるミトコンドリアを介したアポトーシスなのか、もしくはサイトカインによるシグナルを受けてのデスレセプターからくるアポトーシスなのかがわかっていませんでした。

著者らはCHO細胞をBCまたはFBCで培養し、培養中の細胞死が主にアポトーシスに由来することを確かめると共に、マウスのマイクロアレイを用いて培養中のCHO細胞の遺伝子発現変動を調査しました。

以下メモ。

デスレセプター関連
FasL:BCのコンルフエントになった時期(stationary phase: Stat)で発現上昇(↑)。FBCの死につつある時期(death phase: D)で発現減少(↑)。
Fadd:BC、FBCのStatで↑
Rip1:BCのStatで↑。FBC変化なし。
Casp8:BCのStatで↑。FBC変化なし。
※BCでは、FaddとRip1が共に↑で、協働によるCaps8↑(既報)が起きた。
※FBCではCD95を介したシグナルの方がTNF−R1、DR3を介するより優先。Farm、Btk、Cashの動きも一致。

ミトコンドリア関連
Bim:BC、FBCのStatで↑
Bad:BC、FBCのStatで↑
※Bim、BadはBax、Bakが無いとアポトーシス起こせない。
Bcl2-L10:BC、FBCのDで↑。ミトコンドリアからのチトクロームc放出を邪魔。
Casp9:BCのStatで↑。FBC変化なし。
※BCでのCasp8、Casp9の↑、それらが引き起こすCasp3下流のCasp11、DNase1、DNase、Dffaの↑はBCでデスレセプター、ミトコンドリアを介在したアポトーシスが起きているため。BCだから栄養不足で仕方ない。

小胞体関連
Ire-1:↓
Casp7:↓
※小胞体ストレスはかかっていない。

その他
Alg-2:BC、FBCのStatで↓。機能不明。
Requiem:BC、FBCのStatで↑。

次の論文に持ち込む4遺伝子
Fadd:BC、FBCのStatで↑だった。Rip1と揃うとCasp8を発現させるから片方KOしたい。
Alg-2:メカニズムはわからないが、BC、FBCの対数増殖期後期で↑だし、アポトーシス関連らしい。
Requiem:FBCのStatの初期に↑。メカニズム不明。
Faim:経路の図に載っていないが、FBCの初期に↓。



4つの遺伝子を評価した論文
PMID: 16894638
Targeting Early Apoptotic Genes in Batch and Fed-Batch CHO Cell Cultures

先のマイクロアレイを用いた研究で絞り込んだ、CHO細胞のアポトーシスの初期を支配していそうな遺伝子について、介入を行っていきます。
Faim: overexpression
Fadd: Dominant negative
Alg-2: siRNA knockdown
Requiem: siRNA knockdown
siRNAはp.SUPERベクターに入れて細胞に作らせています。

いずれの区でも、タンパク質生産量がコントロールより良くなりました。
BC: Requiem>Fadd>Alg-2>Faim>ctrl
FBC: Requiem>Alg-2>Faim>Fadd=ctrl
FBCで、Fadd遺伝子への介入があまり効果がなかったことは、元々FBCではFadd下流のCasp9、Casp3を介したアポトーシスが起きていなかったことと一致します。

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上記の研究では、比較的少ない~50mg/Lでのタンパク質生産を扱っていたために小胞体ストレスによるアポトーシスが起こっていなかった可能性もあります。
最近のCHO細胞は抗体であれば20倍以上作るので、それぞれについてアポトーシス経路のモニタリングをやろうと思いました。
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by koretoki | 2016-06-21 05:43
2016年 06月 18日

医薬品製造用CHOにも使えるゲノム編集技術:RNA-seqから見つけた遺伝子が実際に良い遺伝子であった例

「RNA-seqから見つけた遺伝子が実際に良い遺伝子であった例」をよく求められるのですが、これはRNA-seqで見つけた6遺伝子のうち2個でknockoutすると良いことがあった例です。
あと、CHOの論文で5番目の著者がCHOさん。

PMID: 26854539
Targeted gene deletion using DNA-free RNA-guided Cas9 nuclease accelerates
adaptation of CHO cells to suspension culture
工業的なタンパク質生産に用いるCHO細胞は無血清培地に馴化させており、また、足場のない浮遊細胞を行います。著者らは、ゲノム編集技術を用いてCHO-K1細胞の無血清・浮遊培養への馴化促進を試みました。

まず開発の対象を得るため、CHO-K1細胞を無血清培地で浮遊培養して馴化させました。継代は10回行い、7回目ほどで馴化が完了したようです。馴化中の細胞及び馴化後の細胞についてRNA-seqを行い、DESeqを用いて発言変動遺伝子(DEG)を抽出しました。得られたDEGより、馴化に伴って発現の減少するDEGとして減少幅の大きい6遺伝子を選抜しました。
次に、それらの6遺伝子についてDNA-free RNA-guided Cas 9の系を用いてknockout したCHO-K1細胞を作成し、無血清・浮遊培養への馴化を行いました。結果、6遺伝子中2個の遺伝子については、それぞれのknochoutによって馴化が促進されました。また、アンプリコンシークエンスにより、馴化前後で細胞集団中のknochoutが成功している細胞の割合を調べたところ、馴化促進効果のあった2遺伝子については、knochoutの成功している細胞が集団中の割合を増加させていました。

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元々CHO細胞の無血清浮遊化にかかる期間は1ヶ月程度ですので、ゲノム編集の手間を考えると実用性には疑問がありますが、RNA-seqで見つけた良さそうな遺伝子の答え合わせの例題としてクリアであると思います。通常のCRISPR/Cas9の系ではプラスミドやレンチウィルスの配列がホスト細胞ゲノムに導入されてしまうことがあり抗体医薬製造用の細胞開発では不適切であるため、CHO細胞のゲノム編集にはDNA-free な編集系の適用が必要であると著者らは述べており、ここが本研究の重心のようです。なので、DEGを得るためにどのサンプル間で比較したのかがわからなかった点、シークエンスした細胞のうち1つの実験区でのみ培養初期(培地に細胞を播種してすぐ)にサンプリングを行ってしまった点(なのでひとつだけPCAで外れてる)も致し方ないのかなと思いました。
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by koretoki | 2016-06-18 11:49
2016年 06月 16日

6x8x8 人工イクラ細胞アレイ

産業用の動物細胞の研究開発では、増殖や生産性が良くなることを期待して培地を改造することがあります。アミノ酸、ビタミン、乳酸、グルタミン酸など多数の培地成分について濃度を振って培養試験を行うためサンプル数が多くなりがちなので、どうやって捌くかが悩みの種になっています。
タンパク質製造のための細胞の培養試験では、細胞数、生産タンパク質濃度の他、糖や乳酸などの代謝物の測定を行うことが多いのですが、細胞数の測定の自動化の点で特に問題がありました。例えば、最も普及している自動細胞数測定装置であるvicellは、一度の測定に500μLのサンプルを要求します。同時に多くの試験を行うにはひとつひとつの培養を小さくしたいのですが、小さくし過ぎると細胞数が数えられなくなってしまうのです。
そこで著者らは、侵襲性のある方法ではあるものの細胞数を測定可能な小さな培養系を用いることにしました。

PMID 24227746
Microarray platform affords improved product analysis in mammalian cell growth studies

培養系の構築は下記の通りです。
polystyrene-co-maleic anhydride でコートしたガラス板の上にpoly-L-Lysineと塩化バリウムの混合液をスポットします。スポットにはMicrosSys 5100-4SQ microcontact microarray spotter という装置を用いるようです。
スポットが十分に乾いたら、200細胞を含んだ60nlの培養液をその上にスポットします。ここで、培養液には、アルギン酸が1%溶かされています。元のスポットに含まれるバリウムがアルギン酸を架橋してアルギン酸バリウムゲルになります。ちなみに人工イクラはアルギン酸カルシウムゲルです。
このようにして固定した細胞を含むゲルたちを、培地で封入して乾燥を防ぎます。

実験終了後はガラス板上に固定したままインビトロジェンのlive/dead viability/ cytotoxicity kit for mammalian cellsを用いて生細胞数を測定することができます。

論文中ではこの系を用いて培地の改変を行っています。



ひとつのガラス板には6x8個の培養をつくることができ、ひとつの装置にはガラス板が8枚乗るそうなので、6x8x8で384の培養をつくることができます。10日間の培養中に4回測定するとしてn=5でやっても20。ひとつの装置で20ほどの条件を調べることができる計算です。
著者らが引用していたambr15は15mL程度のバイオリアクターを24個並列に実験可能ではありますが、ambr15はクリーンベンチひとつ独占するので単位ラボ面積あたりでは利点がありそうです。

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96穴プレート振るのと比べて果たして買うかなと思いました。
一方で、培地の最適化で使う材料はなるほどなと思いました。
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by koretoki | 2016-06-16 11:43