したっぱ昆虫細胞研究者のメモ

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2008年 12月 13日

浸潤転移するハエのがん

ハエ(Drosophila)のがんのレビューです。
ハエのがんの研究から得られた知見が、どの程度ヒトのがんの解明や治療に役立つのか興味深いところです。

David Bilder
Epithelial polarity and proliferation control:links from the Drosophila neoplastic tumor suppressors
GENES & DEVELOPMENT 2004 Aug 15;18(16):1909-25.

このレビューでは、
lethal giant larvae(lgl)、disks large(dlg)、scribble(scrib)の、ひとつのpathwayで働く3つのがん抑制遺伝子について紹介していて、大まかに3つのセクションに分かれています。

1、3つの遺伝子の機能
2、ヒトのがんとハエのがんの類似点
3、polarityとproliferationが共働する機構

長いので数回に分けて記述するつもりです(汁

1967年、ハエのがんは見つかった。
「細胞が急速に増殖し出血し個体を死に至らしめる変異体」であり、「振る舞いが悪質のがんに似ている」と記述されている。
その後、体細胞ハイブリッドを用いた実験によって、がん抑制遺伝子tumor-suppressor gene(TSG)が見つかった。
ヒトのがんとの類似性も議論さるが、TSGについて比較すると、ホモロジーが低いことや、細胞内の局在が異なる事が指摘されている。


●ハエのがん抑制因子
無脊椎動物のがんは一般に少ないとされるが、ハエのがんはスクリーニングによって見つかってきた。スクリーニングの性質上、がんを引き起こすものより、TSGとして見つかっている。
変異体でみつかったがんの異常増殖は、imaginal discを見ることで分析できる。
ハエのがんには大きく2つ、hyperplastic(過形成)とneoplastic(新生物)とがあり、前者は急速に増殖するものの、形は正常細胞と同じで、単層で増える。対して後者は、丸い形で単層をつくることはできない。

●neoplastic tumer-suppresser gene(nTSG)
現在3つのnTSG(lgl,dlg,scrib)が見つかっている。
これらの変異体幼虫は、3齢まで正常に発生する。
しかし、その後彼らは蛹化せず、2週間ほど死ぬまで育ち続ける。彼らの体長は伸び、体はふくれあがるため、giant larvaと呼ばれる。体内では、imaginal表皮と神経が異常に増殖している。さらには、脳もoptic lobeの過形成によって伸びている。
これら表現型の相似が、nTSGが共通のpathwayで動くことを示唆する。

●nTSGがコードする蛋白
3つのnTSG全てが、転写因子ではなく細胞質蛋白をコードしている。Dlg,Scribはともにscaffold蛋白であり、Lglの昨日は不明だが、前記の2つによって補填されるとされている。

●polarityとnTSG変異細胞について
正常な上皮細胞は、正常な細胞の形、強い接着、単層の形成、頂低極性をもっている。
変異細胞は、丸く、接着性は低く、多層を形成します。重要なのは、極性の喪失が他の形質を引き起こす最初の変化とされていること。
正常ならapical部に局在する蛋白が、変異体では細胞表面に自由に散らばっていることが、nTSGがクリティカルに細胞表面構造を調節していることを示唆している。
インテグリンによるマトリクスへの接着はハエの頂低極性には関係ないとされている。
3つのnTSGに加え5つの遺伝子が上皮の極性を決めるとされていて、8つの遺伝子は基本的に3つの蛋白複合体をコードしている。
Crombs,Par-3などがここでは取り上げられているが、nTSGと他の極性遺伝子の調整段階の分子機構は良く分かっていない。
nTSGの極性に関する機能は上皮だけに限らず、神経でも働いている。

●proliferationについて
細胞の異常増殖は細胞分裂チェックポイントが効かなくなることで引き起こされるが、ハエのimaginal diskではG1/Sレギュレータcyclin Eがそれに当たる。
実は、若い幼虫時のnTSG変異体のdiskは正常個体のそれより小さいことも知られている。孵化5日目では野生型の1/3しかない。しかし、蛹化の時期に10日以上増え続け、野生型の5倍に達する。
蛹化失敗自体は細胞増殖の原因にならず、変異体でもエクジステロイドパルスを消されると異常増殖は起きない。
変異体のdiskを野生型に移植すると異常増殖が起きて宿主を殺すが、野生型のdiskを変異体に移植しても異常増殖は起こらない。
polarityとともに、proliferationは上皮だけでなく、神経組織でも働く。
全ての分化する細胞がnTSG変異による変形を起こすわけではない。

●differentiationについて
nTSG変異体の細胞は最終的に分化能を持たない。

●invasionとmetastasis
nTSG変異細胞は浸潤の性質を見せる。
卵巣上皮のnTSG変異細胞は上皮を離れて胚盤胞に侵入する。
野生型にnTSG変異細胞を移植すると転移する。
脳はもっとも浸潤されやすい組織だが、2次転移は他の部分にも育つ。




ショウジョウバエのがんは、白血病風の血球のものしか知らなかったので、固着組織由来で、転移浸潤もするような、がんらしいがんがハエに存在すること自体が非常に面白いです。
また、imaginal diskが異常増殖し、蛹化までは正常に育つところも、変態の前後で細胞の極性を司る因子が異なることを示唆し、またそれを変態に利用している可能性もあって、興味深いです。


次は、ヒトのがんとどのくらい似てるのか、から書きます。



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by koretoki | 2008-12-13 07:44


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