したっぱ昆虫細胞研究者のメモ

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2016年 06月 21日

自殺を止めて増産させる:アレイから見つけた遺伝子が実際に良い遺伝子であった例

前回に引き続き「トランスクリプトーム解析から見つけた遺伝子が実際に良い遺伝子だった」例を取り上げます。
今回の研究は、アレイで良い遺伝子を見つける論文と、見つけた遺伝子の良し悪しを調べた論文に分かれています。

アレイで良い遺伝子を見つける方
PMID: 16570314
Transcriptional profiling of apoptotic pathways in batch and fed-batch CHO cell cultures.
培養細胞を用いたタンパク質製造工程では、培養皿の代わりにジャーなどを使ってバッチ培養(BC)、またはフェドバッチ培養(FBC)を行います。バッチとはフラスコに張り込んだ培地に細胞を加え、途中一切培地等の添加を行わずに最後まで培養を行うものです。フェドバッチ培養では、培養の経過に伴ってフィード培地を加えます。また、pH、DO等をコントロールすることも多いです。FBCの方が長期間培養可能ですが、いずれの培養においても最終的に細胞は死滅します。死滅の原因はアポトーシスと考えられますが、小胞体ストレスへの応答としてのアポトーシスなのか、DNA損傷などによるミトコンドリアを介したアポトーシスなのか、もしくはサイトカインによるシグナルを受けてのデスレセプターからくるアポトーシスなのかがわかっていませんでした。

著者らはCHO細胞をBCまたはFBCで培養し、培養中の細胞死が主にアポトーシスに由来することを確かめると共に、マウスのマイクロアレイを用いて培養中のCHO細胞の遺伝子発現変動を調査しました。

以下メモ。

デスレセプター関連
FasL:BCのコンルフエントになった時期(stationary phase: Stat)で発現上昇(↑)。FBCの死につつある時期(death phase: D)で発現減少(↑)。
Fadd:BC、FBCのStatで↑
Rip1:BCのStatで↑。FBC変化なし。
Casp8:BCのStatで↑。FBC変化なし。
※BCでは、FaddとRip1が共に↑で、協働によるCaps8↑(既報)が起きた。
※FBCではCD95を介したシグナルの方がTNF−R1、DR3を介するより優先。Farm、Btk、Cashの動きも一致。

ミトコンドリア関連
Bim:BC、FBCのStatで↑
Bad:BC、FBCのStatで↑
※Bim、BadはBax、Bakが無いとアポトーシス起こせない。
Bcl2-L10:BC、FBCのDで↑。ミトコンドリアからのチトクロームc放出を邪魔。
Casp9:BCのStatで↑。FBC変化なし。
※BCでのCasp8、Casp9の↑、それらが引き起こすCasp3下流のCasp11、DNase1、DNase、Dffaの↑はBCでデスレセプター、ミトコンドリアを介在したアポトーシスが起きているため。BCだから栄養不足で仕方ない。

小胞体関連
Ire-1:↓
Casp7:↓
※小胞体ストレスはかかっていない。

その他
Alg-2:BC、FBCのStatで↓。機能不明。
Requiem:BC、FBCのStatで↑。

次の論文に持ち込む4遺伝子
Fadd:BC、FBCのStatで↑だった。Rip1と揃うとCasp8を発現させるから片方KOしたい。
Alg-2:メカニズムはわからないが、BC、FBCの対数増殖期後期で↑だし、アポトーシス関連らしい。
Requiem:FBCのStatの初期に↑。メカニズム不明。
Faim:経路の図に載っていないが、FBCの初期に↓。



4つの遺伝子を評価した論文
PMID: 16894638
Targeting Early Apoptotic Genes in Batch and Fed-Batch CHO Cell Cultures

先のマイクロアレイを用いた研究で絞り込んだ、CHO細胞のアポトーシスの初期を支配していそうな遺伝子について、介入を行っていきます。
Faim: overexpression
Fadd: Dominant negative
Alg-2: siRNA knockdown
Requiem: siRNA knockdown
siRNAはp.SUPERベクターに入れて細胞に作らせています。

いずれの区でも、タンパク質生産量がコントロールより良くなりました。
BC: Requiem>Fadd>Alg-2>Faim>ctrl
FBC: Requiem>Alg-2>Faim>Fadd=ctrl
FBCで、Fadd遺伝子への介入があまり効果がなかったことは、元々FBCではFadd下流のCasp9、Casp3を介したアポトーシスが起きていなかったことと一致します。

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上記の研究では、比較的少ない~50mg/Lでのタンパク質生産を扱っていたために小胞体ストレスによるアポトーシスが起こっていなかった可能性もあります。
最近のCHO細胞は抗体であれば20倍以上作るので、それぞれについてアポトーシス経路のモニタリングをやろうと思いました。
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by koretoki | 2016-06-21 05:43


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