2009年 12月 02日
セルラインのように、同一の細胞から由来する細胞の集団の中にも不均一性が生じることが知られています。例えクローニングをしたとしてもそのラインの中で新たな不均一性が生じます。これまで、こういった細胞集団の不均一性は転写やリン酸化を指標に調べられてきましたが、不均一性の原因について解明した研究はありませんでした。 今回著者らは、①接種したウィルスの感染の有無を細胞の状態を示す指標として用い、②培養の映像から細胞の大きさや密度といったパラメータを抽出し、③それらパラメータと細胞の状態についての膨大なデータをニューラルネットワークの学習を用いることで解析することで、細胞の状態とパラメータの関係の概要を導きました。 Snijder B, Sacher R, Ramo P, Damm EM, Liberali P, Pelkmans L. Population context determines cell-to-cell variability in endocytosis and virus infection. Nature. 2009 Sep 24;461(7263):520-3. 実験には、HeLa, A431, MCF10Aといったセルラインが用いられました。また、ウィルスはSV40, Rotavirus, Dengue virusなどが用いられています。著者らは、同一実験条件化で培養されたセルラインにウィルスを接種した場合に、細胞によって感染したりしなかったりすることに注目し、ウィルスの感染が細胞膜の性質に大きく依存することから、ウィルス感染の有無を細胞の状態、特に細胞膜の状態を示す指標になると考えたようです。 撮影された培養の映像から、Population size, Local cell density, Cell islet edges, Cell size, Mitotic state, Apoptotic stateの情報を抽出し、これと接種した各ウィルスの感染の状態をデータとしました。 今回用いられたBootstrapped Bayesian network learning法は、ニューラルネットワークという数学モデルに基く手法で、私が扱うような通常の統計的手法―正規分布やポアソン分布といった何らかのデータの特徴を仮定する方法―と比べて、データの特徴を手法が提出してくれるという点で特に大きく異なっています。(らしいです。) 解析の結果、細胞の集団内の位置から、細胞の状態を説明する方法が発見されました。 iPSを選別する画像処理技術は既に開発され、商品化に向けて研究中と聞きます。(http://d.hatena.ne.jp/Trick_or_treat/20090410) 私は、細胞培養技術の煩わしい点のひとつに、細胞の培養を行う―単に植え継ぎ操作をするという意味ではなく、実験の目的に適う良くコントロールされた状態に培養細胞を保つこと―ために訓練が必要なことがあると考えています。そして、細胞の状態を見る目を養うことも訓練の一部ですし、またそうやって養った目に個人間の差異がある可能性もあります。 画像認識のような中立かつ非侵襲の方法が、細胞培養をより安定な技術とするに違いないと期待しています。 人気ブログランキングに参加しています。 応援よろしくお願いします。
by koretoki
| 2009-12-02 02:05
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